2019.04.22

悪魔の手毬唄

●『悪魔の手毬唄』横溝正史(角川文庫) 

『悪魔が来りて笛を吹く』に続けて読んだ。 
舞台は兵庫県との境にある岡山県の鬼首村 
(おにこべむら)。 
この村には、いまでは高齢者しか知らない 
不思議な手毬唄がある。 

事件はこの手毬唄の歌詞をなぞるように、 
起きてゆく。 
クリスティの『そして誰もいなくなった』 
などでもお馴染みの趣向だ。 
ただし、この手毬唄の存在が発覚するのは、 
すでにいくつかの殺人が起こったあとだ。 

横溝正史の作品を読んでいて感じるのは、 
「血」の問題だ。 
血は争えないというが、血が事件を引き起こし 
ていく。 
本作でも「血」は重要なキーとなっていた。 
「血」が現在の事件と二十年前の迷宮入り事件 
を結びつける。 

横溝正史の魅力の一つはまさしく、日本人の 
「血」の問題をテーマにしていることだと思う。

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2019.04.12

悪魔が来りて笛を吹く

●『悪魔が来りて笛を吹く』横溝正史(角川文庫) 

実は、横溝正史はまだ『獄門島』と『本陣殺人事件』 
しか読んだことがない。 
角川映画でブームになった頃も乗らなかった。 
『八つ墓村』や『犬神家の一族』は映画で観たが、 
原作は読んでいない。 
決して嫌いな作家ではないし、むしろ好きなのだが、 
ブームに乗るのが嫌だったのだろう。 

しかし、好きな作家で未読の本がたくさんあるのは、 
楽しみなことである。 
本書も、やるせないような人間の性をめぐる謎解き 
物語で読ませる。 

帝銀事件をモデルにした宝石店大量殺人事件の容疑者 
となった椿子爵の自殺に始まって、椿家関係者が次々と 
犠牲になっていく。 
殺人現場で奏でられる椿子爵が作曲したフルート曲 
「悪魔が来りて笛を吹く」。 

果たして、一連の事件は死んだはずの椿子爵の復讐なのか。 
一癖も二癖もある登場人物たち。 
椿家関係者が抱える深い闇が、金田一耕助によって、 
解き明かされていく。 

いいねえ、横溝ワールド。 
なにより書き込まれたディテールが効いている。 
密室殺人を扱っても無理やり感を感じさせない。 
根強いファンが多いのも頷ける。

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2019.04.03

第四の扉

●『第四の扉』ポール・アルテ(ハヤカワ文庫) 

平岡敦訳。 
アルテはフランスのミステリ作家。 
ジョン・ディクスン・カーの影響を受けてミステリを 
書き始めたという。 
そのためフランスのカーと呼ばれている。 
本書は作者にとって2作目に当たるが、1作目が限定出版 
だったので、実質的なデビュー作といえる。 
タイトル、舞台設定、謎解きなど、なるほどカーの作品を 
彷彿とさせる。 

ある田舎町にある幽霊屋敷。 
主の夫人が凄惨な自殺を遂げたいわくつきの屋敷だ。 
間借り人はなぜか逃げ出すよに去ってしまう。 
そこに新しく間借りしたのが霊能力者の夫妻だ。 
ある日、夫妻は自殺した夫人の交霊実験を試みるが、 
思わぬ殺人事件が起こる。 
完全な密室殺人だ。 

次々と起こる怪事件に、読者はいったいどのような 
解決策があるのか大いに興味をそそられる。 
後半では見事に事件が解決されるのだが、 
最後の一行まで仕掛けが施されている。 
ええっ、そうだったの。 

密室殺人の解決にはどうしても無理が生じるものだ。 
決して嫌いではないが、やはり腑に落ちる 
人間ドラマが欲しくなってしまう。 
それでも不可能犯罪に挑戦するアルテには脱帽する。 
アルテにはまだ未訳の作品が多くあるが、 
既に訳された作品をもう少し読んでみる気になった。

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2019.01.01

沈黙のパレード

●『沈黙のパレード』東野圭吾(文藝春秋)

新年の第一冊目は東野圭吾にした。
ガリレオシリーズの最新作。
このシリーズは全部読んでいるわけではないが、
単独でも楽しめる作品となっている。

物語の舞台は架空の町、東京都菊野市。
この町で飲食店を営む主人の娘が、
ある日突然行方をくらました。
数年後、その娘の遺体が静岡県で見つかる。

容疑者は、以前にも少女殺人の疑いで逮捕されながらも、
無罪になった男だった。
そして、今回も、男は証拠不十分で不起訴となった。
被害者遺族を嘲弄するかのように、飲食店に現れた容疑者。
関係者の怒りは高まる。

そんな最中、町の秋祭りが行われる。
その日、なんと容疑者が死亡していた。
警察は殺人事件として捜査を始めるが……。

事件の首謀者たちは、暗示されているので、
一種の倒叙ミステリーとしても読める。
殺されたのは人間のクズのような人間だ。
読者は、湯川が真相をあばかないように願ってしまう。

読後、あまりに意外な真相に呆然とする。
東野圭吾。一筋縄ではいかない作家だ。

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2018.12.02

怪奇クラブ

●『怪奇クラブ』アーサー・マッケン(創元推理文庫)

謎めいたプロローグから始まり、
3人の詐欺師にからんだいくつかの怪奇短編が
語られる。
いずれもマッケンらしい、超自然的な恐怖を
描いたものだ。
なかでも印象的だったのは、怪しげな粉薬を飲んで
肉体が溶けてしまう青年の物語。

マッケンの作品には、人間の世界と並行して、
異人たちのはびこる世界があり、
ときおり、その異世界に触れた人間が、
異常な体験をする物語が多く語られる。

マッケンは、なかなか正当な評価を得られず、
不遇な生涯を送った。
だが、あのラブクラフトにも影響を与えた
数々の作品はいまも黒い輝きを放っている。

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2018.08.25

いまは、空しか見えない

●『いまは、空しか見えない』白尾悠(新潮社)

今月で閉店するという高田馬場のブックファーストで、
最後に買った本。
高田馬場も新刊書店はとうとう芳林堂だけになった。
早稲田の古書店もどんどん減っていくし、
寂しくなったものだ。

本書は第16回女による女のためのR-18文学賞の
大賞と読者賞をW受賞している。
帯で三浦しをんさんと辻村深月さんが絶賛している
ので読んでみることにした。

なるほど、いい感性してるねえ。
受賞作「夜を跳びこえて」(「アクロス・ザ・ユニバース」
改題)ほか全5編からなる連作集。

山梨県で厳格な父親に抑圧された生活を送る
女子高生・智佳(ともか)。
ある日、親に内緒で、東京まで憧れのホラー映画監督
の講演会を聴きにでかける。
ところが、行きの長距離バスのなかで同じ高校の、
お馬鹿ギャル・優亜と一緒になってしまう。

しつこく付きまとう優亜をもてあます智佳だが、
なぜ東京にでてきたかを打ち明けられると、
彼女に協力することにした。

智佳と優亜の企ては失敗するが、その夜、
智佳ははじめて父親に反抗する……。

微妙な年頃の少女たち。
傷つきやすく、もろくも、懸命に立ち上がろうとする
彼女たちを応援したくなる。

たしかに女性でなければ書けない繊細さ。
ディテールも丹念に書き込まれている。
映画関連会社にいたという作者ならではの、
ドラマ、映画づくりの現場描写もリアリティがある。

読後、あたたかい余韻を残す作品だ。

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2018.07.28

スクラップ・アンド・ビルド

●『スクラップ・アンド・ビルド』
 羽田圭介(文春文庫)

第153回芥川賞受賞作。
勤めていた会社を退社した主人公・健斗は、
単発のアルバイトをしながら実家で
行政書士の勉強をしている。

同居しているのは母親と祖父だ。
今年87歳になる祖父は、日がな薄暗い
部屋のベッドで寝転がっている。
別に寝たきりというわけではない。
口癖は「早う迎えにきてほしか」。

健斗はふと、あることに思い至る。
「自分は今まで、祖父の魂の叫びを、
形骸化した対応で聞き流していたのではないか」
祖父が求めているのは「苦痛や恐怖心さえない
穏やかな死」なのだ。
それを実現してやれるのは自分しかいないと
健斗は思った。

そして、祖父に楽をさせるように、できるだけ
「手をさしだす介護」をするよう心がけることにした。
つまり祖父がなるべく自分で動かないように仕向け、
体を衰えさせて死期を早めてやろうというのだ。

健斗は、それを実行に移す一方、自分の体は、
筋力トレーニングで鍛えていった……。

就職活動をしながら、なんとなく不安な毎日のなか、
祖父とのやりとりは飄逸でもある。

老人のもつしたたかさと、それに否応なく振り回される
若者の苦闘。

作者は、先行きの見えない日本の現状と、
高齢化社会の問題をみごとに戯画化してみせた。

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2018.07.25

記憶喪失の君と、君だけを忘れてしまった僕。

●『記憶喪失の君と、君だけを忘れてしまった僕。』
 小鳥居ほたる(スターツ出版文庫)

本書はいわゆるケータイ小説の部類に入るらしい。
興味津々で読んでみた。

ある日、大学生の主人公の前に、超かわいい
女子高生が現れ、そのまま同居するという
ありえないストーリー。

少女は記憶喪失で、自分の名前以外すべてを
忘れていた。苗字さえも。
病院に行くことも警察に行くこともおびえて拒否する
少女を主人公は守ろうと決意する。

そして、お互い、惹かれあっていくが、一線を越える
ことはなかった。
将来の目標を見失っていた主人公は、少女のおかげで
小説家になりたかったという夢を取り戻す。

しかし、その少女は一週間ほど経って姿を消してしまう。
再び目標を見失う主人公だが……。

読んでる方が気恥ずかしくなるような愛情表現に、
やや辟易させられるが、作者のメッセージは伝わってくる。

帯には「ラストは絶対号泣!」と書かれていたが、
果たして……。

しかし、ケータイ小説も意外とバカにならないものだと
感じ入った。

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2018.07.24

パラレルワールド・ラブストーリー

●『パラレルワールド・ラブストーリー』
 東野圭吾(講談社文庫)

パラレルワールドとはSFでよく使われるテーマで、
2つ以上の世界が並行して存在する設定を指す。

東野圭吾は本書でこのパラレルワールドを扱って
いるわけだが、そこは作者特有のひねりがいくつも
加えられていて、ひときわ感銘深い作品に
仕上がっている。

ある日、紹介された親友の彼女は、いつか主人公が
一目惚れしたまま接触する機会すらなかった相手だった。

しかし、一方で、主人公が親友の彼女と同棲している
世界も存在していた。
どちらの世界が本当なのか、事態は錯綜していく。

同時に、親友との友情をとるか、彼女との愛を選ぶか、
主人公は究極の選択を迫られる。

本書はSF仕立てのミステリーであり、真の友情とは
何かを問う感動作だ。

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2018.07.23

リピート

●『リピート』乾くるみ(文春文庫)

『イニシエーション・ラブ』の作者が挑んだ、
一種のタイムトラベルもの。
現在の記憶をもったまま十ヶ月前の自分に
戻れるとしたらどうするか。

作中でも触れられているが、これは
ケン・グリムウッドの『リプレイ』(新潮文庫)
のアイデアを借りた作品である。

『リプレイ』の主人公は43歳から18歳の
自分に戻ってやり直すというストーリーだが、
この『リピート』ではわずか十ヶ月前に
戻るだけだ。

本書がユニークなのは、一緒に過去に戻るのが
10人となっているのと、これに連続殺人
を組み合わせたミステリーになっている点だ。

次第に謎が深まっていく進行と、その謎が
解き明かされていく展開はスリリングだが、
いささか冗長に過ぎる感じがした。

でも、自分だったらどうするかと深く考えさせる
ところはさすがだった。

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