2020.01.06

暗約領域 新宿鮫11

●『暗約領域 新宿鮫11』大沢在昌(光文社)

新宿鮫、待望の新刊。
700ページを超える大作だ。
桃井と晶の出てこない新宿鮫は想像できなかったが、
それを補ってあまりある力作である。

麻薬取引があるとタレコミのあったヤミ民泊を
張っていた鮫島が偶然、その民泊で殺人事件が
起こったことを知る。

被害者は身元を残す証拠を一切所持していなかった。
いったい、被害者は何者で誰に殺されたのか。
話は国際問題へと発展していく。

あいかわず、それぞれのキャラが立っている。
ただ、人間関係が複雑で、名前が覚えられず、
何度も確認しながら読み進めなければならなかった。

だけど、久しぶりの鮫島の活躍。
堪能した。

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2019.10.15

事典の語る日本の歴史

●『事典の語る日本の歴史』大隅和雄(講談社学術文庫)

私が『知の分類史』を出したときには、まだ文庫化
されていなかった。
もし先に文庫化されていたなら、ぜひとも参照したかった。

日本の歴史上に編纂された代表的な事典をとりあげ、
その時代の「知」を総覧していこうという試みで、
おおいに触発された。

取り上げている事典は『類聚国史』から
『日本百科大辞典』まで13点。
なかには『太平記』のような軍記物まで含まれている。
なぜ、『太平記』が事典に含まれているのか、
疑問に思われる方もいるかもしれない。

しかし、物語は、ホメーロスの『イーリアス』の時代から
百科事典の役割を持っていたのだ。
当時の人たちは、物語に描かれる事物を元に知識を
広げていった。

本書は日本人がいかに「知」を集積しようとしてきたか、
その苦闘を描いて興味がつきない。

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2019.10.01

白痴

●『白痴』坂口安吾(新潮文庫)

高校生の時代にこの本を読んだ私は、
痺れるような衝撃を受けた。
なかでも、最初に掲載されていた
「いずこへ」という短編にやられた。

「一番汚いところまで行ってやれ」という
一文が目に焼き付いた。
「私はそこのころ耳を澄ますようにして
生きていた」という出だしから始まる
この作品はおよそ、現代の純粋な恋愛などと
いうものとはかけ離れている。

男の元へは一人の女が通うようになっていた。
それとともに男の部屋には釜、鍋、茶碗、箸、
皿、それに味噌の壺だのタワシなどといった、
「汚らしいもの」まで住みはじめた。

男はそれを拒絶するのだが、女はとりあわなかった。
男はもはや自分の考えに固執するだけの「純潔に
対する貞節の念がぐらついていた」

男のまわりにはこの女のほかに、よく飲みに行く
「十銭スタンド」の女店主がいた。
多淫な女で、酔うと店の客に泊まっていくよう
口説くのだった。

女店主は男も口説いたが取り合わなかった。
ところが、ある日、男はこの女店主をふと
思い出し、今度こそ泊まってやろうと決心する。
「一番汚いところまで、行けるところまで
行ってやれ。そして最後にどうなるか、
それはもう、俺は知らない」

全体に漂う虚無感というか、諦念というか、
高校生の私には刺激が強すぎた。

のちにこの作品は現代思潮社のアンソロジー
『風狂』に収められていることを知った。
国立にあった東西書店で買った本だ。

同時期に読んだ『堕落論』は高校生の私には
難しすぎた。

安吾の作品ではあとやはり「夜長姫と耳男」と、
「桜の森の満開の下」だなあ。

これからも安吾作品は再読していきたいと思った。

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2019.06.27

斜陽・人間失格

●『斜陽』太宰治(角川文庫) 
●『人間失格』太宰治(新潮文庫) 

両書とも高校時代以来の再読だ。 
初読後、三島由紀夫にかぶれたせいで、 
太宰作品とは遠ざかっていた。 
三島由紀夫は大の太宰嫌いだったからだ。 

いまさらながら再読したのは、太宰作品が 
暗くて嫌いという最近の身近な何人かの評による。 
いい加減、暗いとか明るいとかだけで、 
評価するのはやめてくれないか。 

文学が相手にするのが「人間」である限り、 
明るい面もあれば暗い面もある。 
暗くて何が悪い。 
そもそも、太宰作品には、独特のユーモアがある。 
それをただ暗いと断ずるのがおかしいのだ。 

たしかに、『斜陽』にも『人間失格』にも、 
「死」の陰はある。 
しかし、「死」は文学の最大テーマだ。 
「死」を考えるからこそ、「生きる」ことの 
真実が見えてくる。 

久方ぶりに再読してみて、意外と内容を覚えて 
いるものだなあ、と感心した。 

やはり名作というのは、若い頃に一度読んで 
おいたほうがいい。 
それを後年再読する喜びは何ものにも代えがたい。 

いずれにしろ、幸福な読書時間を与えてくれた。

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2019.06.20

真夏の方程式

●『真夏の方程式』東野圭吾(文春文庫) 

本屋でめぼしいミステリーを漁っていると、 
つい当たり外れの少ない東野作品に手が伸びる。 
多作な作家なので、とても全作品を読みきれて 
いないが、いままでハズレはない。 

東野作品に共通していえるのは、どれも一種の 
「人情物」であるということだ。 
トリックも練りに練られているが、事件に至る 
までの人間模様に惹きつけられる。 

本書はガリレオシリーズの第6弾。 
舞台は架空の観光地、玻璃ヶ浦。 
仕事で当地を訪れた湯川は電車の中で知り合った 
少年、恭平の叔母一家が経営する旅館に宿泊する。 

事件はその夜起こる。 
同じ旅館に宿泊していた客が変死体で発見されたのだ。 
しかも、その客は元刑事だった。 
当初、単なる落下事故であると思われたが、解剖の結果、 
死因は一酸化炭素中毒であったことが判明する。 

湯川と県警とガリレオシリーズではお馴染み警視庁の 
草薙、内海コンビの捜査が三つ巴で進む。 
やがて、死亡した元刑事と意外な人物との関係が 
明らかになってゆく。 

湯川にとっても、少年、恭平にとっても、忘れられない 
夏になる予感を漂わせて物語は終わる。 
東野圭吾らしい感動作だ。

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2019.06.08

化鳥・三尺角

●『化鳥・三尺角』泉鏡花(岩波文庫) 

「化鳥(けちょう)」「三尺角(さんじゃくかく」ほか 
「清心庵」「木精(三尺角拾遺)」「朱日記」 
「第二菎蒻本」「革鞄の怪」「茸の舞姫」が収められている。 

仕事の関係で赤坂に行ったとき、老舗書店「金松堂」で購入 
した本。久しぶりに鏡花を読んだ。 
詳細な注がついているし、収録された作品も鏡花としては 
すぐ理解しやすい作品ばかりだ。 
上質な幻想短編集といえるだろう。 

私が鏡花にハマるきっかけをくれたのは三島由紀夫だった。 
いまは手元にないが、ある文学全集の鏡花集の解説だったか、 
月報だったか。三島由紀夫が鏡花の復権を訴え、いますぐ 
鏡花全集に赴こうというような檄を飛ばしていた。 

当時、大学を卒業したばかりで、遅ればせながら就職活動を 
していた私は、会社説明会を抜け出して、神保町の書店で、 
なけなしの金をはたいて岩波書店の『鏡花全集』を購入した。 

どうやって家まで持ち帰ったのかよく覚えていないのだが、 
おそらくリュックに詰め込んで、入りきらなかった分は袋に 
入れたのだろうと思う。 
別巻を入れて三十巻の本をよく一度で運んだものだ。 

本書を読んで、そんなはるか昔を思い出した。 
急に懐かしくなって、手元にあった鏡花の文庫本を 
片っ端から読んでみた。 
『高野聖・眉かくしの霊』『春昼・春昼後刻』『草迷宮』 
『夜叉ケ池・天守物語』『日本橋』『照葉狂言』 
『鏡花短編集』(以上岩波文庫)『歌行燈・高野聖』 
(新潮文庫) 

鏡花ワールドにどっぷり浸かった一週間だった。

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2019.04.22

悪魔の手毬唄

●『悪魔の手毬唄』横溝正史(角川文庫) 

『悪魔が来りて笛を吹く』に続けて読んだ。 
舞台は兵庫県との境にある岡山県の鬼首村 
(おにこべむら)。 
この村には、いまでは高齢者しか知らない 
不思議な手毬唄がある。 

事件はこの手毬唄の歌詞をなぞるように、 
起きてゆく。 
クリスティの『そして誰もいなくなった』 
などでもお馴染みの趣向だ。 
ただし、この手毬唄の存在が発覚するのは、 
すでにいくつかの殺人が起こったあとだ。 

横溝正史の作品を読んでいて感じるのは、 
「血」の問題だ。 
血は争えないというが、血が事件を引き起こし 
ていく。 
本作でも「血」は重要なキーとなっていた。 
「血」が現在の事件と二十年前の迷宮入り事件 
を結びつける。 

横溝正史の魅力の一つはまさしく、日本人の 
「血」の問題をテーマにしていることだと思う。

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2019.04.12

悪魔が来りて笛を吹く

●『悪魔が来りて笛を吹く』横溝正史(角川文庫) 

実は、横溝正史はまだ『獄門島』と『本陣殺人事件』 
しか読んだことがない。 
角川映画でブームになった頃も乗らなかった。 
『八つ墓村』や『犬神家の一族』は映画で観たが、 
原作は読んでいない。 
決して嫌いな作家ではないし、むしろ好きなのだが、 
ブームに乗るのが嫌だったのだろう。 

しかし、好きな作家で未読の本がたくさんあるのは、 
楽しみなことである。 
本書も、やるせないような人間の性をめぐる謎解き 
物語で読ませる。 

帝銀事件をモデルにした宝石店大量殺人事件の容疑者 
となった椿子爵の自殺に始まって、椿家関係者が次々と 
犠牲になっていく。 
殺人現場で奏でられる椿子爵が作曲したフルート曲 
「悪魔が来りて笛を吹く」。 

果たして、一連の事件は死んだはずの椿子爵の復讐なのか。 
一癖も二癖もある登場人物たち。 
椿家関係者が抱える深い闇が、金田一耕助によって、 
解き明かされていく。 

いいねえ、横溝ワールド。 
なにより書き込まれたディテールが効いている。 
密室殺人を扱っても無理やり感を感じさせない。 
根強いファンが多いのも頷ける。

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2019.04.03

第四の扉

●『第四の扉』ポール・アルテ(ハヤカワ文庫) 

平岡敦訳。 
アルテはフランスのミステリ作家。 
ジョン・ディクスン・カーの影響を受けてミステリを 
書き始めたという。 
そのためフランスのカーと呼ばれている。 
本書は作者にとって2作目に当たるが、1作目が限定出版 
だったので、実質的なデビュー作といえる。 
タイトル、舞台設定、謎解きなど、なるほどカーの作品を 
彷彿とさせる。 

ある田舎町にある幽霊屋敷。 
主の夫人が凄惨な自殺を遂げたいわくつきの屋敷だ。 
間借り人はなぜか逃げ出すよに去ってしまう。 
そこに新しく間借りしたのが霊能力者の夫妻だ。 
ある日、夫妻は自殺した夫人の交霊実験を試みるが、 
思わぬ殺人事件が起こる。 
完全な密室殺人だ。 

次々と起こる怪事件に、読者はいったいどのような 
解決策があるのか大いに興味をそそられる。 
後半では見事に事件が解決されるのだが、 
最後の一行まで仕掛けが施されている。 
ええっ、そうだったの。 

密室殺人の解決にはどうしても無理が生じるものだ。 
決して嫌いではないが、やはり腑に落ちる 
人間ドラマが欲しくなってしまう。 
それでも不可能犯罪に挑戦するアルテには脱帽する。 
アルテにはまだ未訳の作品が多くあるが、 
既に訳された作品をもう少し読んでみる気になった。

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2019.01.01

沈黙のパレード

●『沈黙のパレード』東野圭吾(文藝春秋)

新年の第一冊目は東野圭吾にした。
ガリレオシリーズの最新作。
このシリーズは全部読んでいるわけではないが、
単独でも楽しめる作品となっている。

物語の舞台は架空の町、東京都菊野市。
この町で飲食店を営む主人の娘が、
ある日突然行方をくらました。
数年後、その娘の遺体が静岡県で見つかる。

容疑者は、以前にも少女殺人の疑いで逮捕されながらも、
無罪になった男だった。
そして、今回も、男は証拠不十分で不起訴となった。
被害者遺族を嘲弄するかのように、飲食店に現れた容疑者。
関係者の怒りは高まる。

そんな最中、町の秋祭りが行われる。
その日、なんと容疑者が死亡していた。
警察は殺人事件として捜査を始めるが……。

事件の首謀者たちは、暗示されているので、
一種の倒叙ミステリーとしても読める。
殺されたのは人間のクズのような人間だ。
読者は、湯川が真相をあばかないように願ってしまう。

読後、あまりに意外な真相に呆然とする。
東野圭吾。一筋縄ではいかない作家だ。

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