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2006.04.01

芥川は2人いた?! 怪奇現象は芥川を襲ったか?

 ことの始まりは、私がかかわっていたあるテレビ番組で、「ドッペルゲンガー」という現象を調査していたときのことだ。

 ドッペルゲンガーとは、目の前に、自分と同じ姿の、もう一人の自分をみてしまう不思議な現象で、これを見ると死ぬという言い伝えがあった。

 このドッペルゲンガーを芥川龍之介が見た、というネット情報があった。
 情報源を調べてみると、これもあるテレビ番組だった。どこかの大学の先生が、芥川が何かの対談で、帝劇でドッペルゲンガーを見たと語っている、というのだ。

 すでにネット上では、芥川がドッペルゲンガーを見た、という情報が常識であるかのように流れていた。

 そこで、この話の裏をとるべく、岩波版『芥川龍之介全集』で、芥川の対談すべてに目を通してみた。

 結果、芥川がドッペルゲンガーを自分で見たと語っている部分はなかった。
 その代わり、外国ではドッペルゲンガーというのがあるそうだ、と語っている部分はあった(注1)。

 さらに、このとき一緒に仕事をしていたKさんから、芥川が『歯車』のなかで、帝劇でドッペルゲンガーが起こったことを書いていることがわかった(注2)。

 これで真相が判明した。あの大学の先生は、芥川の対談と『歯車』の内容をごっちゃにしてしゃべっていたのだ。
 故意かどうかは不明だ。

 間違った情報でも、またたくまに、コピー増殖されていくネットの怖さを改めて感じたのだった。

 蛇足だが、次の『歯車』の一節は、芥川が偏頭痛持ちだったことを証明する文だという。
 偏頭痛には、いろいろな前兆現象が起こる場合があり、これは、視覚的な前兆現象であるという。

「~僕はそこを歩いているうちにふと松林を思い出した。のみならず僕の視野のうちに妙なものを見つけ出した。妙なものを?--と云うのは絶えずまわっている半透明の歯車だった。僕はこう云う経験を前にも何度か持ち合わせていた。歯車は次第に数を殖やし、半ば僕の視野を塞(ふさ)いでしまう、が、それも長いことではな、暫くの後には消え失せる代わりに今度は頭痛を感じはじめる。」


※注1
「馬場 誰でしたか狂人になって居るときに自分と同じ姿を部屋に見たといふ話がありますね。
 畑 ゲーテにありますね、同じ姿を見たのは。
 芥川 西洋でも自分と同じ顔を見ると後で死にますね。
 芥川 独逸人の話ですが、スルクの町の宝石屋なんだが、その男が町の角を歩いて居ってその角を曲がると向ふから曲がって来た人にぶつかった。顔を見合わせたらそれが自分だったといふ話をしたさうです。その男が材木の山を持って居るのだが、翌日になつてその材木を伐出して居るのを見て居る時に、材木が自分の方へ倒れて死んださうです。そんな話を集めた本がありますよ。」
(1924(大正13)年7月1日及び5月1日発行の『新小説』第29年第4号、第5号『怪談会』)

※注2
「しかし亜米利加の映画俳優になったKの夫人は、第二の僕を帝劇の廊下に見かけていた。(中略)それからもう故人になった隻脚の翻訳家もやはり銀座のある煙草屋に第二の僕をみかけていた。」
(『歯車』)

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