« 綺想礼讃 | Main | センチメンタルな旅・冬の旅 »

2012.08.07

純文学の、はからずもエロス

中高生のとき読んだ「純文学」で、
なぜか、とっても官能的に感じた
シーンがある。

いま、読むと、全然なんとも感じないのだが、
あのころは、衝撃的だった。

おそらく、作者は、意識的にはエロチックな
狙いはなかったのではないかと思う。
だが、無意識的には、エロスの匂いを感じ取って
いたのでは。


●「カインの末裔」有島武郎
 (岩波文庫『カインの末裔・クララの出家』所収)

主人公は貧しい農民夫婦。
チョイ悪の夫が、ある日、酔っ払って帰ってきて、
寝ていた妻に抱きつき、その口に、
ムリヤリ大福を詰めこむ。やらしい。
これだ。

「「……汝(わり)ゃ可愛いぞ。心から可愛いぞ。
 宜(よ)し。宜し。汝ゃこれ嫌いでなかんべさ」
といいながら懐から折木(へぎ)に包んだ大福を
取出して、その一つをぐちゃぐちゃに押しつぶして
息気(いき)のつまるほど妻の口にあてがっていた。」

という、まあ、別にエロでもなんでもないのだが、
深読みすれば、gag playの元祖みたいなものか(笑)。


●「静かな夏」吉田知子(新潮社『無明長夜』所収)

芥川賞作家のファースト短編集のなかの一作。
語り手が、アパートの共同風呂で腋毛を剃るシーン。
なぜか、そこに男が入ってくる。
語り手がクリームを拭くために、何の気無しに使って
いたのは、男が忘れていった下着だった。

「私はちょっとそれに触ってみる。右手はもちろん
頭の上にあげたまま。洗ってお返しするわと私は言う。
男が返事をしないので私は剃り続ける。急ぐと尚うまく
いかない。じゃ、早く洗って下さいよ、と男は言いながら
近づき、私から剃刀を取りあげる。男の頭から強い香料の
匂いがする。男は案外器用に剃りだす。右腕をつかんでいる
男の手は熱くて気持ち悪い。」

なお、この作者のホラー短編集『お供え』(福武書店)は
すごく怖い。お薦め。


●『悪い夏』倉橋由美子(角川文庫)

倉橋さんの本の初文庫化。短編集。
これは、もはや、はからずもエロスではないのだが……。
はじめて、こんな趣味もあるのかと、目を見開かされた本。
あえて、引用はしません。

|

« 綺想礼讃 | Main | センチメンタルな旅・冬の旅 »