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2013.12.10

親指Pの修業時代

●『親指Pの修業時代 上・下』
 松浦理英子(河出文庫)

いまから20年ほど前、松浦理英子の
『ナチュラルウーマン』(河出文庫)を
読んだときは衝撃的だった。

女性同性愛者を主人公にしたこの作品では、
女性におけるA感覚という、
男にはとうてい知りえない感覚が描かれている。

「不意に花世が性器よりも後方の部分を探った。
訝しむ暇もなかった。池の裏手の深い沼に
指が差し入れられていた」

「指はさらに奥へと差し込まれた。押し広げ
られて行く感覚が喉のあたりにまで走り、
私は頬を蒲団に埋めた。かつてないときめきが
全身に広がり呼吸が乱れた。おかしな悪戯
どころではなかった。性的なものかどうかは
判断できなかったが私は激しく昂奮した」

「A感覚とV感覚」(『一千一秒物語』新潮文庫)、
『少年愛の美学』(河出文庫)の稲垣足穂が
生きているなら是非読ませてみたかった。


しかし、本日は『親指Pの修業時代』である。
『ナチュラル・ウーマン』はまた後日にしよう。

女子大生の真野一実は、ある日、自分の右足の
親指がペニスになっているのに気づいた。
爪の痕跡は残っているものの、刺激すれば勃起
もする。ただし、射精はしないので正確には
生殖器と呼べなかった。

この親指のせいで恋人の正夫とは破局する。
それから出会う、盲目の音楽家・春志。
さらには、ひょんなことから参加することに
なった〈フラワー・ショー〉で出会った異形の
者たち。

彼らとの交流により、主人公は成長を遂げていく、
という一種のビルドゥングス・ロマン(成長物語)
の形をとっている。
ポルノ小説の類と期待して読むと肩透かしをくう。

〈フラワー・ショー〉は性的に特殊な体質をもつ
者たちによる、秘密のショーである。
ペニスに突起のある男、膣内に歯の生えている女、
シャム双生児の弟が腹部に寄生している男……。
ショーに勧誘された主人公は、スタッフの一員
として参加する。

作者自身は「これは性の通念に対して抗う小説」
であると言っているが、なるほどここには性の
めくるめく多様性が開示されている。


主人公の一実は親指ペニスから教えられた。
「貪欲にかつ理知的に惹き出し合った快感と欲望を
性器結合によって一つの大きな快楽に昇華させる
型通りの性行為よりも、体も心もときめきで満たす
密接な肌の触れ合いの方が好ましい」


異常なシチュエーションを設定し、性の通念に抗う
ことには十分成功しているといえよう。
松浦理英子、恐るべし。

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