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2014.01.31

銀の匙

●『銀の匙』中勘助(岩波文庫)

最近、同名の漫画があるようだ。
こちらの作品は明治末期から大正初期の作。
夏目漱石が絶賛したことで知られている。

語り手の本箱の引き出しに大切にしまわれた
木製の小箱。
その中には小さな銀の匙が入っている。

その匙の思い出話から、読者はいつの間にか、
幼心の世界に誘(いざな)われている。

よくある子どもの頃の単なる回想ではなく、
まったく子どもの目で見たままの世界が
描かれているのだ。

いつも世話をしてくれた伯母さんとの日々、
お気に入りだった神田川沿いのお稲荷さん、
一緒に遊んだ女友達との出会いと別れ……。

とくに前篇の最後、おけいちゃんとの別れは
哀切だ。
まるで、自分の子どもの頃の体験のように
胸が切なくなってくる。

珠玉の作品とは、こういう小説のことを
言うのだろう。

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2014.01.27

草枕

今年は、いろいろまわりの環境に
変化が起こりそうな予感。

現状を打破するためには、
動かなくちゃダメだ。

まあ、とりあえずは、
いま抱えてる仕事を完遂させること。


●『草枕』夏目漱石

古本屋の店先で、岩波『漱石全集』が、
1冊100円で売られていた。
なんたること。
第二巻の「短編小説集」を買った。
分厚い、重い。でも字が大きくて読みやすい。

まずは、最重要作「草枕」を読む。
学生の時に一度読んだから二度目になる。

「智に働けば角が立つ。情に棹させば流される
 意地を通せば窮屈だ。兎角に人の世は住みにくい」

という冒頭のフレーズが有名なこの作品は、
ピアニストのグレン・グールドが愛読書にしていた
と言われている。

語り手は、画工ではあるのだが、
なかなか画を描かない。
画工は、俗世間を抜け出して、
「非人情」の世界に遊びたくて、旅に出たのだ。

句や歌や漢詩を愛した漱石が、
自分の理想郷を求めていたようにも思える。

小説とは言っても、なんら面白い事件が
起こるわけでもない。
ただ、俗みのない、夢のように美しい自然が
臨まれる。
重要な登場人物としては、宿屋の娘、那美がいる。
彼女とて、まるで自然の一部分かのようで、
ふいに現れては、語り手を驚かせる。

小説と写生文のぎりぎりのせめぎ合い。
これは漱石の桃源郷であるのかもしれない。

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2014.01.19

ねじの回転

書かなければならない原稿、企画書が
溜まってしまった。
ちょっとスピードを上げなければ。


●『ねじの回転 心霊小説傑作選』
 ヘンリー・ジェイムズ(創元推理文庫)

心理小説家ヘンリー・ジェイムズの傑作幽霊譚。
実は、以前、新潮文庫版で読んだことがあるが、
よく理解できなかった。

再読して、ようやく初読のときのもやもやした
読後感の意味が理解できた気がする。

古い屋敷で育てられている兄妹の
家庭教師として雇われた女性の手記。
幽霊は主人公の前に忽然と現われる。
どうやら、以前、この屋敷に勤めていた
召使と前の家庭教師の亡霊らしい。

幽霊を見るのは主人公だけなのだが、
主人公は子どもたちにも見えていると確信する。
亡霊たちは、兄妹を悪徳の道に
誘おうとしているようだ。

しかし、その悪徳とは何なのか、
本当に子どもたちに幽霊が見えているのか、
読者にははっきりわからない。

なので、幽霊は家庭教師の幻覚であるという
解釈も生まれてくるのだ。
だが、これは作者が意図的にぼかして
書いているに違いない。
そのほうが恐怖が倍増するのだ。
これが初読のときはわからなかったのだ。

亡霊はとくに何をするわけではない。
だが、恐怖感、不安感がじわじわと襲ってくる。
何より、亡霊を見ているらしい子どもたちが、
それを隠しているところが怖い。

邦題の「ねじの回転」は、正確には、
ねじのひとひねりというような意味だという。
本当にひとひねりもふたひねりもしてある
不思議な味の怪談である。

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2014.01.05

デイジー・ミラー

年末年始はあっという間に過ぎた。
書かなければならない原稿もあるが、
もっぱら、新しい企画を練っていた。
苦しいがワクワクする仕事である。


●『デイジー・ミラー』ヘンリー・ジェイムズ
 (新潮文庫)

ヘンリー・ジェイムズは以前『ねじの回転』を
読んだだけだ。
ジェイムズといえば、『ある婦人の肖像』
『大使たち』『金色の盃』『鳩の翼』などの
長編小説で知られている。

これらも読みたいのだが、とりあえず、
ウォーミングアップとして短編を読むことにした。
『ヘンリー・ジェイムズ短編集』(岩波文庫)
『ねじの回転 心霊小説傑作選』(創元推理文庫)

『デイジー・ミラー』は短編と中編の真ん中くらいの
分量で、初期の代表作だ。
スイスとイタリアを舞台に、自由奔放なアメリカ娘
デイジー・ミラーに振り回される主人公
ウィンターボーンの心理を描く。

主人公の淡い恋心も主題の一つだが、
それよりも重要な主題は“文化の違い”だ。
決して紋きり型ではないが、自由なアメリカ人と、
ちょっとお堅いヨーロッパ人の違いがあぶり出される。

この物語は19世紀末が舞台だが、実際、この時代には
デイジーのような放恣なアメリカ人と堅実な
ヨーロッパ人との、小さな“文明の衝突”があちこちで
起きていたらしい。

とくに山場という山場はないのだが、
デイジーに与えられる常識人たちの非難が手厳しく、
守ってあげたいような気持ちになる。
反面、もっと常識をわきまえろよという気持ちにも
なるのだが……。
最後に、マラリアにかかって死んでしまうデイジー
が哀れを誘う。

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