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2016.12.20

羊と鋼の森

●『羊と鋼の森』宮下奈都(文藝春秋)

本屋大賞受賞作。
ピアノの調律師という地味なテーマを、
よくこれほど感動的に書き上げたものと思う。

ピアノに興味を持ったこともなかった高校生が、
体育館で垣間見た調律師の仕事に魅せられる。
卒業後、調律師の学校で学び、地域のピアノ店に
就職する。
そこは、あの体育館で作業していた憧れの調律師
がいる店だった。

調律という仕事は、ただ、ピアノの音程を合わせる
というだけの作業ではない。
音を柔らかくしたり硬くしたり、明るくしたり暗くしたり、
よく響かせたりくぐもらせたり。
調律師の腕一本で、ピアノの音色は千変万化する。

調律師もさまざまだ。
徹底的に客の要望に応えようとする者、
客の実力に合わせて適度な音に調節する者、
一流音楽家のコンサートに密着する者……。

主人公は、これらの個性豊かな調律師たちに
学びながら一歩ずつ成長していく。

繊細な言葉遣いと抑えた筆致で淡々と進む物語に
深く心に刻まれる味わいがある。
決して表舞台には出ない仕事ながら、素晴らしい
奏者と出会った時の喜びは果てしなく大きい。

読後、静かな感動に包まれる良質な物語だ。

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