« 美国横断鉄路 | Main | コンビニ人間 »

2016.12.09

内地へよろしく

今年はイチョウの散るのが遅かった。
いよいよ冬色が深まってきた。
当地へ越してきてからもうすぐ一年が
過ぎようとしている。


●『内地へよろしく』久生十蘭(河出文庫)

十蘭の戦中小説。
十蘭は戦時中、従軍報道員として南洋に
派遣されているが、その体験が色濃く
反映されいる。

画家である松久三十郎は海軍報道班員として、
南洋の基地に滞在していた。
ある日、ニューギニアの日本領土の最南端を
孤立無援で守っている兵士たちがいることを知り、
そこへ行くことを志願する。

目的地まで送ってもらった山吉船長、どん助、
カムローという個性豊かな面々との出会い。
カムローは海の底を「歩いて」渡るという、
驚異能力の持ち主だ。

たどり着いたのは、補給も絶え絶えで、
自給自足で生き抜いている兵士たちのいる地だった。
主食は生のヤム薯。
絶え間ない敵機の攻撃にさらされている死の際だ。
生き物といえば、兵員が体温で卵から孵したという、
雌鶏一羽だけだった。

三十郎は彼らの覚悟ある生き方に惹かれていくが、
激しくなる敵の攻撃に、内地へ戻ることを勧められる。

一旦は内地へ帰る三十郎だが、最前線への思いが
断ち難く、再び、戦地へ戻って行く……。

敗色濃くなっていく戦時中の作品ゆえ、国威発揚の
企図が感じられるが、そこは十蘭。
魅力的な登場人物たちが織り成す濃密な物語を堪能した。
やがて迎える死に立ち向かう人物たちの姿が凛々しい。
最後のシーンは思わずじんとした。

この長編は、後にぐっとコンパクトにされて、
「風流旅情記」(出帆社『巴里の雨』所収)という
短編として結実する。
そちらと読み比べてみるのも一興。

|

« 美国横断鉄路 | Main | コンビニ人間 »