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2017.01.17

北京の秋

●『北京の秋』ボリス・ヴィアン(早川書房)

テリー・ギリアム監督の「Brazil(邦題:未来世紀ブラジル)」
は、ストーリーとブラジルはなんの関係もない。
使われている曲のタイトルが「ブラジル」というだけである。
いかにも人を食ったタイトルだ。

本書も、内容とタイトルはなんの関係もない。
北京もでてこなければ、秋でもない。
タイトルからは、内容はまったく想像できないのである。
それからもわかるように、本書はかなりの実験作だ。

ストーリーらしきものを紹介するとすれば、
あるどこかの砂漠に鉄道を敷く一大事業に
まつわる人間模様といったところか。

しかし、この小説ではストーリーはさして重要ではないと
思われる。
非現実的な設定、飛躍したイメージ、斬新な描写、
読者は、ヴィアンの奔放な想像力に振り回される。
その酩酊感が何よりすばらしい。

だが、一応の主人公らしきアンジェルの純愛(片思い)も
一つのモチーフとなって読者の胸に突き刺さる。
してみると、これは破天荒を装った愛の物語か?
あるいは死の予兆か?
登場人物の何人かはあっさりと死んでしまうからだ。

解説が安部公房というのもうれしい。
氏は、この作品と比較できるものといえば、
カフカが書いた『不思議の国のアリス」か
ルイス・キャロルの書いた『審判』ではないか
と述べている。

なるほどなあ。
それくらい不思議世界なのである、この作品は。
ヴィアン、恐るべし。

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2017.01.13

!(ビックリマーク)

●『!(ビックリマーク)』二宮敦人(アルファポリス文庫)

仕事の参考に読んだ。
不条理ホラーとなっている。
収録されているのは3編。

「クラスメイト」
(拾った携帯電話のデータフォルダには、
友人の死体映像が残されていた)
「穴」
(ふとしたひょうしで部屋の壁に穴があいた。
その穴は殺人鬼の部屋とつながっており……)
「全裸部屋」
(目を覚ますと、全裸で真っ白な部屋に閉じ込め
られていた女子高生。脱出する方法はあるのか)

どうです。ちょっとそそられるでしょう。
ありえない設定と、そりゃないだろうという進行、
一応意外な結末。
ついつい読まされてしまう。
ああ、こんなのもありなのかと思わされた。

そりゃ、キングやクーンツや夢野久作などに比べれば
風格はないかもしれないけど、勢いを感じた。
新世代ホラーねえ。こういうのも受けるんだな。

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2017.01.10

キャリー

仕事の関係上読んだ、いまさらのキングの傑作。
すべてはこの一冊から始まった。
あやうく捨てられかけていたキングの短篇原稿を、
妻が拾ってキングに長編化するよう勧めた。
そして誕生したのが『キャリー』である。

三度も映画化された作品だから、あえてストーリーを
紹介するまでもないだろうが……。
物体を動かす超能力(テレキネシス)を持つ
キャリー・ホワイトは、狂信的なキリスト教信者の母親に
厳しく育てられ、学校ではいじめられっ子である。

そんなキャリーに、人生最大の晴れ舞台が訪れる。
クラスメートのはからいにより、学校の舞踏会に、
男の子から誘われたのだ。

だが、狡猾な女子生徒の一人の罠に陥る。
仕込みによって舞踏会のクイーンに選ばれたキャリーに、
天井から豚の血が浴びせられた。
生徒たちの哄笑のなか、ついにキャリーは一線を超える。
キャリーの能力が解放されたのだ。
恐るべき破壊の嵐。学校はもとより街は壊滅的打撃を受ける。

随所に挿入された学術書、報告書、裁判証言などの断片により、
最後に何かが起こるのは予測されるが、それがある種の
リアリティを与えている。

すでにユリ・ゲラーをはじめとする超能力ブームの過ぎ去って
しまった現代ではあるが、この作品の魅力は古びていない。
それは現在でも、キングの巧みな小説作法により、
この悲劇のヒロイン、キャリーへの深い共感が、
呼び起こされるからだろう。
怪物のようなこの少女にも、普通の少女の幸せを求める
権利はあったのだと。

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