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2018.05.27

月の満ち欠け

●『月の満ち欠け』佐藤正午(岩波書店)

第157回直木賞受賞作。
不思議な小説である。
生まれ変わりという、古くて、手垢のついた
テーマを扱いながら、新しい。

主人公・小山内堅の間に前に現れた
ひとりの少女。
その少女は、自分の亡き娘の
生まれ変わりだという。

受け入れがたい話でありながら、
次々と明かされる事実に、
主人公は現実感を失ってゆく。

読者は、物語の迷宮にいやおうなく、
引き込まれる。

まったく異なる切り口でありながら、
同じテーマを描いた作品として
本作を読みながら思い出していたのは、
三島由紀夫の『豊饒の海』だった。

『豊饒の海』では、最後に大どんでん返しが
待っているのだが、この物語ではどんな結末が
用意されているのか。

本作では、「純愛」の成就という、もうひとつの
テーマも清冽に描かれている。

忘れがたい読後感を残す作品である。

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2018.05.20

崩れる脳を抱きしめて

●『崩れる脳を抱きしめて』知念実希人(実業之日本社)

医療ものミステリー。
であると同時に、ベタな恋愛ストーリーでもある。

研修医の主人公は研修先の、とある
富裕層向け療養型病院である女性患者と出会う。
女性患者は悪性の脳腫瘍を患い、その「爆弾」が
いつ爆発してもおかしくない状態だった。

借金を残して家出した父を恨んでいる主人公は、
この女性患者によって、その心の闇から
解き放たれてゆく。
主人公は、女性患者への恋心を打ち明けられないまま、
研修期間が過ぎてしまった。

ここまでが第一章だが、物語は第二章に入って、
急速な展開を見せる。
読者は二転三転するストーリーに翻弄され、
最後に大どんでん返しが待っている。

意外な感動作であった。

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2018.05.13

かがみの孤城

●『かがみの孤城』辻村深月(ポプラ社)

2018年本屋大賞受賞作。
ちょっと苦手なファンタジー系の物語だが、
一気に読まされた。

訳あって不登校となった女子中学生が、
自分の部屋にあった鏡の中に入ると、
そこにはおとぎ話のような城があった。

城には自分を含め、男女7人の中学生が
集められていた。
この城の中には、願いを叶えてくれる鍵が
隠されているという。

胸が痛くなるような現実と、非現実的な
世界のかけがえのない仲間たち。

鏡の外では、闘わなければならない
現実がある。
でも、厳しい現実の世界だって
敵だけじゃない味方もいる。

中学時代の友情。
何か、懐かしい。

それにしても、この常軌を逸した
設定はいったい何なのだ。
終盤に一気にそれまでの「謎」が
明かされてゆく。

「謎」は途中である程度、読めてしまうけれど、
作者のあたたかい眼差しが感じられて、
心地よい読書体験だった。

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2018.05.12

東京焼盡

●『東京焼盡』内田百間(中公文庫)

内田百間(門構えに月)が終戦間近に
書いた日記。
次第に激しくなってくる空襲と、戦時中の
暮らしが克明に記されている。

どれほど空襲がひどくなっても疎開しなかった
百鬼園先生の信念が感じられる。

配給品の米やお酒も乏しくなり、
著しい我慢を強いられる。
たまに手に入った酒やビールをありがたく頂く。
読んでいるこちらも嬉しくなる。

日本人が忘れてはいけない貴重な記録。

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2018.05.06

祈りの幕が下りる時

●『祈りの幕が下りる時』東野圭吾(講談社文庫)

加賀恭一郎シリーズはほかに、
『どちらかが彼女を殺した』と、
『私が彼を殺した』しか読んでいない。

本来は、先に書かれた加賀シリーズを
もう少し読んでから本書に臨んだほうが
より楽しめただろう。

もちろん、独立した作品としても十分面白かった。

本書では、無垢な親子愛が切々と描かれている。
『白夜行』などでもそうだったが、秘密めいた
家族愛をテーマにしたときの東野圭吾は強い。

加賀シリーズも含めて、未読の東野作品を
もっと読みたくなった。

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