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2018.06.24

ふがいない僕は空を見た

●『ふがいない僕は空を見た』窪美澄
 (新潮文庫)

山本周五郎賞受賞作。
以前から、タイトルが気になっていた作品
だったが、予想を覆される衝撃作だった。
何か、もっと、切ない青春小説のような
ものを想像していた。

冒頭は、ポルノ小説かと思わせるような
露骨な性描写が続く。
本のチョイスを間違えたかと思ったけれど、
読み進むうちに、どんどん引き込まれていった。

五編の短編からなる連作長編なのだが、
どれも救いがたい物語だ。
あがらいがたい「性(さが)」に囚われた者たち。
年上の主婦とのセックスにのめりこんでいく
高校生。
非はないのに不妊を姑になじられる主婦。
認知症の祖母を抱えて生活苦にあえぐ男子生徒……。
だが、その救いのない世界にも、一筋の光明が
さしこむ。

なにより、登場人物たちにそそぐ作者の優しい
眼差しが感じられる。
だから、読後はある種爽やかな感慨に
襲われる。
どんな境遇に置かれようが、生きることには
何か意味があるのかもしれない。

気になる作家がまた一人見つかった。

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2018.06.23

放課後

●『放課後』東野圭吾(講談社文庫)

江戸川乱歩賞受賞作。
東野圭吾が会社員だったころに、
書き上げた作品だ。

女子高で起こる密室殺人事件。
いくつもの仕掛けが施されていて、
読みごたえがある。

殺人の動機がちょっと「?」だけど、
それを補うだけの技巧がある。

こうしてみると、やはり東野圭吾は、
本格推理小説にこだわってきた作家
なのだと感じ入る。

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2018.06.16

ブラウン神父の童心

●『ブラウン神父の童心』G・K・チェスタトン
 (創元推理文庫)

シャーロック・ホームズと並び称される、
ブラウン神父の第一短編集。

短編推理小説のエッセンスが詰め込まれている。
冴えない風貌のブラウン神父のキャラクターが
まずいい。
一見、切れ者には見えないのに次々と難事件を
解決していく姿は、あの『刑事コロンボ』などの
キャラクターを彷彿とさせる。

原作が出版されたのは1911年。
こういう古典的な探偵小説は、時間の余裕の
あるときにゆっくり楽しむのが最良だ。

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2018.06.10

卒業

●『卒業』東野圭吾(講談社文庫)

加賀恭一郎ものの第一作目。
そして、東野圭吾が江戸川乱歩賞をとってからの
第一作目でもある。

卒業を控えた大学生の友人関係をめぐる、
青春群像であり、本格推理ものだ。

すでに、加賀恭一郎ものを何冊か読んでいるので、
なるほど、こういう登場のしかただったのかと
興味も惹かれた。

ちょっと無理矢理なトリックだけれど、
密室ものや不可能犯罪に挑む作者の意気込みは
感じられる。

加賀恭一郎の仲間のひとりの女子大生が、
謎の死を遂げる。
自殺か他殺か。自殺にしろ他殺にしろ、
動機はまったく不明だ。

その謎も解けないうちに、またしても、
仲間の女子大生が死にみまわれる。
こちらも自殺か他殺か、また動機は
何なのかわからない。

剣道と茶道のマニアックな世界が、
丹精に描かれる。
最後はほろ苦い結末が待っていた。

青春小説と本格推理がみごとに融合した
佳作だ。

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2018.06.06

「あすの会」解散

この6月3日で、全国犯罪被害者の会「あすの会」が
解散することになった。

2000年の発会依頼、犯罪被害者の権利のために
闘い続けた。
その功績ははかりしれない。

書きたいことは山ほどあるが、
まずは、関係者の皆様、ありがとうございました。
皆さんの志は、微力でも受け継いで行きたいと
思っています。

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2018.06.04

片想い

●『片想い』東野圭吾(文春文庫)

東野圭吾らしい問題作だ。
主人公は、大学時代アメフト部にいた
三十代の西脇哲朗。
毎年恒例となっているアメフト部の
同窓会が終わった夜、かつての
マネージャーであった日浦美月と再会する。

話があるという美月を自分のマンションに
連れて行き、洗面所を借りた彼女は、
驚いたことに男装をして出てきた。
そして、美月は告白する。
自分は殺人を犯したと。

哲朗は、妻とともに、美月をかくまうことを
決心する。

なぜ、美月は男装をしていたのかは、
物語の核心に迫るので触れられない。

解説によれば、作者は、SMAPの
「夜空ノムコウ」を聴いて本作の
着想を得たという。
あのころの未来にいる僕たちは、
どう変わり、何を失ったのか。

それにしても、これだけ複雑で、
多層なテーマをもつ作品をみごとに
完成させてしまう東野圭吾は本当に
すごい。
思わずうならされた。

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