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2018.07.28

スクラップ・アンド・ビルド

●『スクラップ・アンド・ビルド』
 羽田圭介(文春文庫)

第153回芥川賞受賞作。
勤めていた会社を退社した主人公・健斗は、
単発のアルバイトをしながら実家で
行政書士の勉強をしている。

同居しているのは母親と祖父だ。
今年87歳になる祖父は、日がな薄暗い
部屋のベッドで寝転がっている。
別に寝たきりというわけではない。
口癖は「早う迎えにきてほしか」。

健斗はふと、あることに思い至る。
「自分は今まで、祖父の魂の叫びを、
形骸化した対応で聞き流していたのではないか」
祖父が求めているのは「苦痛や恐怖心さえない
穏やかな死」なのだ。
それを実現してやれるのは自分しかいないと
健斗は思った。

そして、祖父に楽をさせるように、できるだけ
「手をさしだす介護」をするよう心がけることにした。
つまり祖父がなるべく自分で動かないように仕向け、
体を衰えさせて死期を早めてやろうというのだ。

健斗は、それを実行に移す一方、自分の体は、
筋力トレーニングで鍛えていった……。

就職活動をしながら、なんとなく不安な毎日のなか、
祖父とのやりとりは飄逸でもある。

老人のもつしたたかさと、それに否応なく振り回される
若者の苦闘。

作者は、先行きの見えない日本の現状と、
高齢化社会の問題をみごとに戯画化してみせた。

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2018.07.25

記憶喪失の君と、君だけを忘れてしまった僕。

●『記憶喪失の君と、君だけを忘れてしまった僕。』
 小鳥居ほたる(スターツ出版文庫)

本書はいわゆるケータイ小説の部類に入るらしい。
興味津々で読んでみた。

ある日、大学生の主人公の前に、超かわいい
女子高生が現れ、そのまま同居するという
ありえないストーリー。

少女は記憶喪失で、自分の名前以外すべてを
忘れていた。苗字さえも。
病院に行くことも警察に行くこともおびえて拒否する
少女を主人公は守ろうと決意する。

そして、お互い、惹かれあっていくが、一線を越える
ことはなかった。
将来の目標を見失っていた主人公は、少女のおかげで
小説家になりたかったという夢を取り戻す。

しかし、その少女は一週間ほど経って姿を消してしまう。
再び目標を見失う主人公だが……。

読んでる方が気恥ずかしくなるような愛情表現に、
やや辟易させられるが、作者のメッセージは伝わってくる。

帯には「ラストは絶対号泣!」と書かれていたが、
果たして……。

しかし、ケータイ小説も意外とバカにならないものだと
感じ入った。

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2018.07.24

パラレルワールド・ラブストーリー

●『パラレルワールド・ラブストーリー』
 東野圭吾(講談社文庫)

パラレルワールドとはSFでよく使われるテーマで、
2つ以上の世界が並行して存在する設定を指す。

東野圭吾は本書でこのパラレルワールドを扱って
いるわけだが、そこは作者特有のひねりがいくつも
加えられていて、ひときわ感銘深い作品に
仕上がっている。

ある日、紹介された親友の彼女は、いつか主人公が
一目惚れしたまま接触する機会すらなかった相手だった。

しかし、一方で、主人公が親友の彼女と同棲している
世界も存在していた。
どちらの世界が本当なのか、事態は錯綜していく。

同時に、親友との友情をとるか、彼女との愛を選ぶか、
主人公は究極の選択を迫られる。

本書はSF仕立てのミステリーであり、真の友情とは
何かを問う感動作だ。

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2018.07.23

リピート

●『リピート』乾くるみ(文春文庫)

『イニシエーション・ラブ』の作者が挑んだ、
一種のタイムトラベルもの。
現在の記憶をもったまま十ヶ月前の自分に
戻れるとしたらどうするか。

作中でも触れられているが、これは
ケン・グリムウッドの『リプレイ』(新潮文庫)
のアイデアを借りた作品である。

『リプレイ』の主人公は43歳から18歳の
自分に戻ってやり直すというストーリーだが、
この『リピート』ではわずか十ヶ月前に
戻るだけだ。

本書がユニークなのは、一緒に過去に戻るのが
10人となっているのと、これに連続殺人
を組み合わせたミステリーになっている点だ。

次第に謎が深まっていく進行と、その謎が
解き明かされていく展開はスリリングだが、
いささか冗長に過ぎる感じがした。

でも、自分だったらどうするかと深く考えさせる
ところはさすがだった。

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2018.07.22

出版禁止

●『出版禁止』長江俊和(新潮文庫)

「話題騒然!!異例の大重版出来!!」
帯の謳い文句につられて読んだ。

著者はあるきっけで、出版禁止になった
原稿を手にする。
原稿のタイトルは「カミュの刺客」で、
若橋呉成というルポライターが書いたものだった。

あるドキュメンタリー作家と心中して生き残った
女性へのインタビュー記事だ。
なぜ、女性だけが生き残ったのか、
心中は偽装されたものではなかったのか。

しかし、若橋は、取材しているうちに、
女性の魅力にとりつかれてしまう……。

最後の大どんでん返しが待っているのだが、
読後感はよくなかった。
でも、思い切り騙されたい人には好著かも。

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2018.07.19

宿命

●『宿命』東野圭吾(講談社文庫)

どうしようもない運命の呪縛に翻弄される人々。
東野圭吾の作品に繰り返し登場するテーマだ。

本書も、高校時代の初恋の女性が、
よりによって、学生時代にライバルだった男の
妻になっていた警察官の物語だ。

主人公はある事件の担当となるが、
その事件の容疑者となったのが、
宿命のライバルの男だった。

「宿命」というタイトルに託されたのは、
主人公とライバルとの摩訶不思議な因縁だ。

果たして、主人公は、その「宿命」を知った
ほうがよかったのか。
深い余韻を残す作品だ。

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2018.07.03

ちょっと今から仕事やめてくる

●『ちょっと今から仕事やめてくる』
 北川恵海(メディアワークス文庫)

タイトルに惹かれて買った本。
ブラック企業に勤める隆は精も根も
疲れ果て、ある日ふらっと線路に
飛び込もうとする。

危ういところを救ってくれたのは、
ヤマモトと名乗る男だった。
ヤマモトは隆の同級生だという。

どうしてもヤマモトのことが思い出せない
隆だが、やがて二人の交流が始まる。

ある日、ネットでヤマモトの名を検索
してみたところ、出てきたのは3年前に
自殺した男のニュースだった。

それでは、隆が付き合っている
ヤマモトとはいったい何者なのか。
ヤマモトの正体がわからないまま、
隆は職場で追い詰められていく。

ライトノベルだからすぐ読み終わってしまった。
荒削りでストレートな作品だけど、
物語のエッセンスが詰まっている。
たとえば漱石の『坊ちゃん』がそうであるように。

ありきたりなラブストーリーではなく、友情の物語
にしたのも成功している。
実は、友情ものには滅法弱いのだ。

「弱さ」「こわれやすさ」「フラジャイル」。
この作品を支えているのはこの繊細な感覚だ。
だから共感を呼ぶ。

仕事に疲れた人におすすめの一冊。

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